最近、猫がニュースやトピックなどで取り上げられることがますます多くなってきました。
「猫ブーム」という言葉は数年前から聞いていたように思いますが、より顕著になったのは、今年一月、日本ペットフード協会が「犬の飼育頭数が減り、猫の飼育頭数が増えて、両者に差がなくなってきた」という結果を公表してからだと思います。
小動物臨床業界では、毎年定期的に、大規模なセミナーと研究発表の大会が開かれるのですが、ここ数年、そのセミナーのタイトルに「猫の○○病について」など、「猫の」とついたものが増えたな、という印象があります。
これまでは、動物種の分類は、大まかには「犬と猫」「それ以外の小動物」に分けられ、セミナーのタイトルに動物種の記載が何もなければ、それは大体においてメインに犬、そして猫の話である、という認識でした。
それが最近では、「猫の」という、猫を独立させたタイトルが増えています。なのですが、じゃあそれなら「犬の」という言葉がタイトルにつくことがあるのかといえば、それはまだないようです。だからこの先、「猫の」「犬の」というように、動物種を細かく分けるスタイルが定着するのか、今一時期の猫ブームに乗っているだけなのかは、まだはっきりしない状態です。
動物病院についても、「猫の」動物病院が増えてきました。
動物病院の中で犬と猫のゾーニングを行うこと、つまりそれぞれの空間を分けることは最近考えられてきており、私自身もそれを意識して待合作りをしていますが、動物病院そのものが猫に特化している、という傾向が最近目覚しいな、と思います。少し前にテレビでも紹介されていました。
これからの動物病院は、このままこの傾向を発展させて、動物種に特化していくようになるのでしょうか。
これまでの動物病院は、犬と猫を診るのが基本として、あと特化した部分として診療科別、つまり「消化器科」「循環器科」「神経科」というような分類をしていたと思います。
そして犬と猫以外、つまりエキゾチックアニマル(小動物)専門があり、そこからはさらに細分化して、ウサギ専門、鳥専門、と分かれていくのですが、それは人の病院では「小児科」にあたるようなイメージでしょうか。
そしてこれからは、猫も、ひいては犬も、診療科ではなく、動物種で分類されていくのでしょうか?
私が犬や猫、動物たちの病気について考えるとき、「比較動物学」という概念があるように思います。
私もずっと意識してきたわけではなく、猫の動物病院についていろいろ考えているうちに気づいたのですが、大学時代に学んだことから受け継がれているもので、獣医師はみな身につけている考え方だと思います。
ひとつの病気を考えるとき、牛や馬の大動物から始まり、犬や猫、エキゾチックアニマルに至るまで、その解剖や生態の違いによって、病気にも様々な違いが生まれるのですが、それらを考慮に入れて、病気への理解を深めていくような考え方です。
もし将来、動物種によって病院が細かく分かれるような時代が来たら、ひとつの動物種への理解が深まり、医療の質は上がるはずなので、それはいいことだと思うのですが、この「比較動物学」の概念が薄れていく可能性があり、それは残念なことかもしれない、と思います。
臨床獣医師が大学を卒業して研修に入るとき、どのような病院を選ぶのか、それこそひとつの種類を追い求める病院に入ってエキスパートになる選択肢もあり、また、いくつかの動物種を診るようにするのか、どの動物を診るのか?など、修行の仕方もどんどん多岐にわたり、入り組んでいくことでしょう。
飼主さんもますます、どの病院を選べばいいのか?と、迷われるシーンが増えるのかもしれません。
そう考えるとやはり、「犬の病院」「猫の病院」などという看板は、選ぶほうからすれば、一目瞭然でとてもわかりよいのかもしれず、今後はそういう方向に向かっていくのかもしれないなあ…という予感もありつつ、たくさんの動物種を診る、という、獣医師独特の思考回路も、大事にしていければいいと思っています。
緒方
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