3/15に、ロックが冬眠から覚めました。
冬の間は、今までずっと冬眠してきた環境で預かってもらっていたのですが、「もぞもぞ動いてるから、そろそろと思う」という情報をもらってから数日後、「起きたよ」といって連れてこられたロックを見た瞬間、・・・・・・自分でも驚くくらい気持ちが高ぶって、びっくりしました。
ロックが起きた!春が来た!長い冬は終わったのだ!と、・・・・・・いえ、別にそこまで、厳しい冬を耐えしのんできたわけでもないのですが、わけもなく感動して、季節の移り変わりを強く感じました。

去年の11月に冬眠にはいったので、実に4ヶ月ぶりです。冬眠前、体が準備をしていたのでしょう、ほとんど動かない状態になっていたのも見てきたので、元気に動き回っている様子に感激しました。無事起きてくれるか心配していたから余計に。

身近な動物が冬眠をして、そして起きる、という経験を初めてさせてもらったわけなのですが、起きてきたロックを見ていると、診察室や待合をくまなく歩くその背中には、何か新しいものをもの珍しく眺めるような、わくわく感のようなものが乗っているような気がしました。
もちろんリクガメさんなので、動きはゆっくりなんですけど、何となく、あちこち初めてのものを見て回るような楽しさがあって、食べ物も、初めて食べるようなもの珍しさで首をかしげ、そして美味しそうに食べて、

・・・なんというか、冬眠から起きるということは「生まれ変わる」に近いことなのかな、
という印象を抱きました。
もちろん、科学的根拠もなにもない、ただの感想なんですけど、ただ寝て起きるのとは決定的に何かが違うように思います。

冬眠とは何か?
当たり前のように知っていた言葉ですが、詳細が気になって少し調べました。
狭義には、哺乳類や鳥類が冬の間、体温や体の活動性を下げて、餌が取れない季節を乗り切るためのシステムで、ロックのようなカメや爬虫類といった変温動物が、冬の間、気温低下に伴って体温が下がった状態で冬を越す「冬越」と呼ばれる形態とはまた別のようです。
広義には、哺乳類や鳥類の冬眠も、変温動物の冬眠も、一緒に「冬眠」と呼ばれるみたいですが。

「冬に眠る」という字があてられていますが、実は「眠り」とは全く異質のシステムで、体温維持のスイッチが切り替わったようなものとのこと。私も、長く眠るようなものなのだろう、と漠然と考えていたため、そうではないとわかって驚きました。
リスなどは、冬眠をずっと続けていると睡眠不足になってしまう(!)ため、睡眠を補うために時々冬眠から起きる、という説もあるそうで、眠るために起きるなんて・・・!と、驚きです。
ロックのような変温動物は、周りの気温の低下に伴って冬眠状態になり、春になると起きてきますが、だからといって、他の季節に人工的に気温を下げても、同じような体の状態にはならないらしい。
うーん、奥が深い。
去年、冬眠前にクチバシを切ったのですけど、クチバシも爪もほとんど伸びておらず、もちろん飲み食いも便もしていなかったわけですし、ほんとうに、体の動きを止めていたんだな、とわかる風貌。
人は冬眠はできませんが、冬眠と似たような身体の状態は数例報告されているようで、それこそ、人を仮死状態にして数百年後に目覚めるといったような、壮大なSFの世界観にもつながっていきそうです。

私は経験したことがない、これからも経験できないであろう状態、体の変化、そういうものを見せてくれるロックはすごいと思ったし、それだけじゃなく、もっと知識を深めて、ロックの体調を守れるように、治療まで結び付けていかなければいけないな、と思いました。
何だか、間抜けな感想文みたいな結びですが、とにかく、ロックが起きて、また病院の一員に加わってくれたので、これからまた一段と、めぐり来る春、そして続いていく季節に、毎日のひとつひとつに、真摯に向き合っていこう!と、そう思ったわけなのです。

獣医師 緒方

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